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「動植物細胞におけるストレス応答機構」に関する共同研究
Vol. 1 (2000) 242
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老化ストレス関連遺伝子(WRN)の機能解析
児玉 靖司1), 鈴木 啓司1), 渡邉 正己1)
1) 長崎大学薬学部保健衛生薬学講座放射線生命科学教室
Abstract:  ヒトの寿命は、主に遺伝的素因と環境ストレスという2つの要因によって左右される。もし、老化を促進するストレス(老化ストレス)に対する感受性を決定する機構が明らかになれば、老化ストレスを軽減することが可能になるはずである。そこで本研究では、最近単離された遺伝的早老症Werner症候群(WS)の原因遺伝子であるWRN遺伝子の機能解析を試みた。WS患者は、思春期以降、急速に老化症状が促進される劣性遺伝病であり、平均寿命は50歳未満である。従って、正常なWRNタンパク質は、老化ストレスに対抗して急激な老化促進を抑制する機能を持つものと推定されるが、現在、ヘリケース活性とエキソヌクレース活性を持つこと以外、その機能については不明な点が多い。我々は、WRN遺伝子の機能を探るために、まずWS細胞に特異的にみられる異常形質を調べ、次にその異常形質に対して外来性の正常WRN遺伝子の発現がどのような影響を及ぼすかを検討した。SV40で不死化したWS細胞(WS780)について、細胞増殖率、4-nitroquinoline-1-oxide(4NQO)感受性、自然突然変異率、及び突然変異のタイプについて解析したところ、細胞増殖率、及び自然突然変異率に関しては、対照細胞とWS780細胞との間に差が見られなかった。しかし、WS780細胞は、4NQOに高感受性であり、欠失型突然変異の出現率が非常に高いことが分かった。そこで、WRN遺伝子が存在する8番染色体をWS780細胞に移入して外来性のWRN遺伝子の発現を確認後、4NOQ感受性、及び欠失型突然変異の出現頻度について調べたところ、WS780細胞にみられるこれらの形質に関する異常は、全く正常化されないことが分かった。これらの結果は、4NQO高感受性、欠失型突然変異の好発といったWS細胞の異常形質が、WRN遺伝子欠損により直接誘発されたものではないことを示唆している。おそらく、WRN遺伝子機能の異常は、遺伝子安定性を制御する修復機構の二次的突然変異と強くリンクしており、この二次的突然変異が老化促進に大きく寄与しているのではないかと考えられる。

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