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「さきがけ研究21」研究報告会「状態と変革」
Vol. 1 (2000) p.8
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時間分解ホールバーニング分光法による蛋白質構造の揺らぎの時間領域観測
柴田 穣1)
1) (財)レーザー技術総合研究所
  最新の研究成果は、水溶液中の蛋白質の構造はこれまで考えられていた以上に柔軟で、揺らぎの大きなものである事を、徐々に明らかにしつつある。私は、特にナノ秒からミリ秒の時間領域に起こっている蛋白質の構造揺らぎの重要性を指摘してきた。時間分解ホールバーニング分光法は、これまであまり明らかにされていないこの時間領域での蛋白質ダイナミクスを観測するのに、極めて有効な実験手段である。下図左は、酸素貯蔵蛋白質ミオグロビンの酸素結合部分の立体構造を示している。赤い部分が、酸素分子が結合するヘムであり、この図ではモデル化合物である一酸化炭素が結合している。左上の図では黄色の残基が一酸化炭素を覆うようなコンフォメーションをしており、そのため配位子分子が溶媒中に逃げる道筋は存在しない。一方左下の図では、その黄色の残基が開いたコンフォメーションをしており、それにより配位子分子の溶媒への逃げ道が開かれている。溶液中の蛋白質の構造は、左下図の上下のようなコンフォメーション間で揺らいでいると考えられており、この構造揺らぎが配位子分子結合の平衡定数などの機能上重要な因子をコントロールしていると考えられる。右の図は、亜鉛置換ミオグロビンにおける時間分解ホールバーニング法で測定された、ホールスペクトルのピーク位置の時間変化である。なんらかの構造揺らぎがこのスペクトルの時間変化を引き起こしている訳であるが、本研究により左図に示したコンフォメーション間の揺らぎと強く関係していること、またそれに対する蛋白質内部の水分子の効果が明らかとなった。こうした構造揺らぎは、酵素蛋白質にとっても重要な要素であるはずで、今後様々な酵素分子にホールバーニング法を適用して、機能に重要な揺らぎの様子を明らかにしたい。

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