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「さきがけ研究21」研究報告会「状態と変革」
Vol. 1 (2000) p.20
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擬一次元ハロゲン架橋金属錯体における電子格子相互作用と電子相関の競合による新電子相の創製
山下 正廣1)
1) 東京都立大学大学院理学研究科
  擬一次元金属錯体は興味ある物性を示すことから盛んに研究されている物質群である。金属イオンがPdの場合は架橋ハロゲンが金属間の中央からずれたPd(II)-Pd(IV)混合原子価状態(CDW)をとるが,金属イオンがNiの場合は架橋ハロゲンが金属間の中央にあるNi(III)モット絶縁体状態(SDW)をとることがわかっている。つまりPdとNiでは基底状態が全く異なっている。もし単結晶中でNiとPdが連続的に混ざったらどういう電子状態をとるだろうか?これが我々の研究目的である。幸運にも電気化学的方法によりNi-Pd混晶系Ni1-xPdx(chxn)2Br3を単結晶として得ることに成功した。いずれも配位子のchxnとカウンターイオンBrとの間に2次元的な水素結合が存在している。そのためv(N-H)は一次元鎖の電子状態を反映している。Pd成分が多いときにはv(N-H)は3本観測される。つまり、両端の2本はPd(II)-Pd(IV)混合原子価状態に相当し、中央の1本はNi(III)状態に相当する。しかし、Niの成分が多くなるにつれて次第に中央の1本に変わる。つまり、Niの成分が多くなるにつれてPd(II)-Pd(IV)混合原子価状態がPd(III)状態に変化したわけです。共鳴ラマンスペクトルにおいて[Pd(chxn)2][PdBr2(chxn)2]Br4はv(PdIV-Br)に基づく倍音が観測されるが[Ni(chxn)2Br]Br2では架橋ハロゲンが金属間の中央にあるためにラマンが観測されない。混晶系Ni1-xPdx(chxn)2Br3においてNiの成分が多くなるにつれて倍音もラマン強度も次第に小さくなる。つまり,Niの成分が多くなるにつれてPd(II)-Pd(IV)混合原子価状態がPd(III)状態に変化したわけである。この結果は赤外の結果と良い一致をしている。Niサイトの電子相関の大きさを見積もるためにXPSとAuger spectraを観測した。その結果,およそ4〜5eVであった。つまりNiサイト状の電子相関は4〜5eVであり、一方、Pdサイト状の電子格子相互作用は約1eVである。つまり、Niサイト上の電子相関がPdサイト状の電子格子相互作用に勝ったために、Pd(II)-Pd(IV)混合原子価状態がPd(III)状態へと変化したものである。今後はNi-Co混金属錯体Ni1-xCox(chxn)2Br3の合成にもチャレンジしようと思います。

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