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「さきがけ研究21」研究報告会「状態と変革」
Vol. 1 (2000) p.18
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マンガン酸化物の光スイッチ効果
守友 浩1)
1) 名古屋大学理工科学総合研究センター
  1.マンガン酸化物の電子構造
マンガン酸化物は、伝導電子とマンガンの局在スピンとの間にオン·サイトの強い強磁性交換相互作用(3eV程度)が働いている。そのため、伝導電子のエネルギーがそのスピンの向きに依存して、3eV程度分裂する。伝導電子のスピンと局在スピンの向きが反並行の状態は、平行の状態に比べて3eVエネルギーが高い。これが、交換相互作用によるギャップである。この交換相互作用によるギャップは、光吸収で観測することができる。我々は、3eV付近に温度に顕著に依存する吸収帯を見つけ、その磁化依存性より、ギャップ間の電子遷移に帰属した。光遷移はスピンの向きを反転できないため、強磁性相ではこの吸収体が消失してしまう。したがって、我々は、このギャップ間遷移をスピン系の乱れのモニターとして利用できる。
2.マンガン酸化物の光スイッチ
2-1 光照射によるスピン系の擾乱
マンガン酸化物に可視光を照射すると、電子が酸素サイトからマンガンサイトへと励起される。これを電荷移動励起という。励起された電子は、1ps程度の短い時間でもとの酸素サイトへ緩和する。さて、照射される光のエネルギーが小さい(赤い光)場合は、移動する電子はマンガンの局在スピンと同じ向き(上向き)を向いている。しかしながら、光のエネルギーが3eVを超える(青い光)と、下向きスピンを持った電子が励起されるようになる。この際、下向きスピンは、強いオン·サイトの交換相互作用を通じて、波長の長いスピン波を吐き出す。このスピン波励起によるスピン系の乱れは、電子系が緩和した後も残ると考えられる。
2-2 室温での透過率制御
(Liu. et al., JJAP 39 (2000) L670)
先に述べたように、スピン系の乱れは3eV付近に存在するギャップ間吸収帯でモニターすることができる。我々は,そこでマンガン酸化物膜の過渡吸収の時間発展を測定することにした。期待通り、3eV付近の吸収係数は過渡的増大した。これは、光照射によりスピン系が乱れたことを意味する。スピン系の乱れは、30nsという早い時間で消失する。この早い緩和時間は、試料の温度上昇では説明できない。さらに、スピン系の乱れは、下向きスピンを持った電子を励起すると効率よく起こることが明らかとなった。
2-3 抵抗率の光制御
(Liu. et al, submitted to JJAP.)
一方、スピン系の乱れは抵抗率に多大な影響を及ぼすはずである。我々は、La0.6Sr0.4 MnO3膜をニ端子素子にパターンニング(線幅200ミクロン·厚さ1000A)し、光照射が抵抗率に与える影響をしらべた。このパターンニングは、名大浅野氏にお願いした。その結果、室温で抵抗が70%も増大した。抵抗率変化の寿命は、やはり、30ns程度である。また,抵抗率の時間発展は、3eV付近の吸収係数のものと類似であるので、抵抗率の増大はスピン系の乱れに起因すると考えられる。

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