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「さきがけ研究21」研究報告会「状態と変革」
Vol. 1 (2000) p.14
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III-V族磁性半導体超構造の光誘起磁性
宗片 比呂夫1)
1) 東京工業大学理工学研究科
  筆者は半導体と磁性体の融合化により、磁性金属と磁性絶縁体との間に横たわる未踏領域を切り開き、スピンの絡む新現象や効果を発見·応用することを目指して研究してきた。
(1) 光を当てて磁性を変える
(In,Mn)Asという物質は、InAsというIII-V族化合物半導体に多量のMnが添加された希薄磁性半導体である。この物質を超薄膜GaAs-Feグラニュラー構造化して非磁性のIII-V族化合物半導体GaSb上に積層しヘテロ構造を形成した後で光照射を行うと、(In,Mn)As層の磁気秩序が常磁性から強磁性へと大きく変化することが明らかとなった。図1の磁化曲線は、このような実験データの一例である。挿入図は、試料断面構造の概念図である。GaSb層中で生成した正孔が選択的に(In,Mn)As層に移動·蓄積され、正孔スピンを介してMn間に誘起される強磁性交換相互作用が十分に強くなると、磁化の顕著な増大が起こる。この実験により、磁性混晶半導体超構造を適切に設計·作製すれば、磁性を常磁性から強磁性に光照射で制御できることが明らかとなった。
(2) GaAsやGaNにFeやMnを潜り込ませる
Mn以外の磁性原子を半導体中に大量に添加できれば、素材の磁性とキャリヤ濃度をより広範に制御できると期待される。本研究では、多量のFe原子をGaAs母体中に多量に添加することを集中的に検討した。結果、低温(200°C)分子線エピタキシー法により常磁性GaFeAs混晶薄膜を、高温交互堆積法によりGaAs-Feグラニュラー複合構造薄膜(図2)を、それぞれ世界に先駆けて作製することができた。前者は、III-V族磁性混晶半導体がMn以外の磁性原子を用いても作製できることを実証するものである。GaNにも多量のFeやMnが混入可能であることも世界に先駆けて呈示することができた。
(3) 室温光変調磁性
GaAs-Feグラニュラー複合構造薄膜では、室温を含む広い温度領域で、光照射により磁化が可逆的に増減することを見出した。このような性質を有する半導体や磁性体はこれまでに知られていなかった。この試料には大きさも様々で磁性的な振る舞いも異なる磁性粒子が存在し、光照射によりキャリヤスピンが発生するのは多結晶質のGaAs部分であると様々な実験から推測されるが、磁化変化は膜中に分散したナノメートルサイズのFe微小粒子である可能性が高いことが明らかになりつつある。この発見は材料設計に新しい方向性をもたらすものと期待される。得られた独創的研究成果をさらに展開させて、スピン協同現象を中心とするスピン演算、スピンメモリー、スピン通信デバイス等の新原理を打ち立てることに貢献して行きたいと考えている。

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