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「さきがけ研究21」研究報告会「状態と変革」
Vol. 1 (2000) p.12
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強相関電子系による熱電変換材料の設計と合成
寺崎 一郎1)
1) 早稲田大学 理工学部
  熱電変換とは、読んで字のごとく熱を電気に変えることである。熱を電気に変えると聞いて、まず思いつくのが火力発電や原子力発電であろう。これは、石油や核物質を燃やして水蒸気を作り、その圧力でタービンを回して交流を発生させるものである。この場合、熱を動力(力学的仕事)に変換し、さらに動力を電力に変換している。同様に、自動車のエンジンも、気体の圧縮·膨張を利用して熱を動力に変換している。これらの場合、ガスの温度が高いほど動力への変換効率が良く、逆に低温ガスの熱量は有効に動力に変換できない。自動車の排気ガスは、エンジンから排出直後は400°C程度であり、ガソリンのエネルギーの大半は、排気ガスの熱となって利用できないまま排出される。現代社会は、膨大な電力と自動車による物資の流通に支えられており、このような排熱(廃熱)は増えこそすれ減ることはない。これはエネルギー資源の無駄遣いだけでなく、地球環境の深刻な汚染をもたらす。この排熱を回収する方法はないであろうか。実は、金属や半導体は、熱を直接電気に変換するしくみを持っている。金属や半導体の両端に温度差を与えると、温度差ΔTに比例した電圧V=SΔTが発生する。この現象をゼーベック効果といい、比例係数Sを熱起電力(ゼーベック係数)という。これまで熱起電力は、主に温度センサー(熱電対)として利用されてきた。しかし熱起電力が大きくかつ抵抗率が小さければ、熱(温度差)から実用的な電力を作りだすことができる。図に模式的に示すように、温度差がある環境で固体は一種の電池のようにふるまう。この場合、熱起電力は電池の起電力、抵抗率は電池の内部抵抗に相当する。このような物質を熱電変換材料といい、熱電変換材料を用いて熱を電気に変換することを熱電発電という。層状酸化物NaCo2O4は、高温超伝導体なみに低い電気抵抗率(室温で200μΩcm)と、縮退半導体なみに大きな熱起電力(室温で100μV/K)を持つ。このことは、この系が温度勾配のもとで電力を発生させうること、すなわち熱電変換材として有望であることを意味している。実際この系の熱電特性は、他の酸化物の熱電特性に比べ群を抜いて高い。しかもこの系のキャリア濃度は従来の熱電変換材料にくらべて二桁から三桁以上大きく通常の金属と同程度である。それにもかかわらず100μV/Kという大きな熱起電力を示すことは、単純なバンド理論にもとづく一電子近似では理解できない。3年間のさきがけ研究で、この系の高い熱電特性発現機構の解明を試みた。

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