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「さきがけ研究21」研究報告会「状態と変革」
Vol. 1 (2000) p.10
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レーザーにより生成した光励起分子場による有機磁性系のスピン整列制御
手木 芳男1)
1) 大阪市立大学大学院 理学研究科
  最近、炭素、水素、窒素のみからできている有機分子でも、磁石になるものが見出されており、“分子からなる磁石”という意味で分子磁性体あるいは有機磁性体と呼ばれています。有機分子の結晶が磁石になるというのは一見不思議な事のように思えますが、磁性の起源に立ち返って見ると電子自体がミクロな磁石としての性質(スピンと呼ばれる)を持っており、そのミクロな磁石の向きを揃える事によりマクロな磁性を発現しているのであり、要は“その向きをいかにそろえるか(スピン整列)?”により様々な磁気的性質が生じるわけです。エネルギーの低い基底状態と呼ばれる状態では、この様な磁性の発現メカニズムについて、すでに多くの事がわかっています。一方、光励起状態に目を向けて見ると、そこには未解明の問題が数多く残っています。私の研究では、レーザー光で生成した励起分子の場を利用した、有機磁性系でのスピン整列の制御を目指しました。この目的の為には、有機磁性系がもともと基底状態において持っているラジカルのスピンと光で生成した励起状態との間での分子内部でのスピン整列と、励起状態に有るそれらの分子間でのスピン整列の2つを実現する必要があります。具体的には、図1に示すような光励起状態にする部位とスピンの源としての安定有機ラジカル(R)を一分子中に集積した系を用い、それらの光励起状態での分子内スピン整列と、それらの分子を基にした有機電荷移動結晶系を作成し、レーザー光による励起分子場を利用した分子間スピン整列の可能性を探求しました。今回、アントラセン環を始めとするπ共役した縮合多環芳香族を有する安定ラジカルを合成し、その電子状態とスピン整列を調べました。その結果、本研究の最終目標である純有機磁性系における光による磁性制御を達成する上での一方の鍵となる、励起分子場を利用した分子内スピン整列を達成する事ができました。また図2に示した系では、基底状態ではアントラセン誘導体の側鎖につけた2つのラジカルのスピンは反対向きそろうのに対し、光励起状態を介したスピン整列により、スピンの向きを同じ方向に反転させる事ができました。すなわち、分子内の2つのラジカルスピン間での有効交換相互作用Jeffの符号が、光励起により負から正へ変化する現象が見出されました。これらの結果により、光による励起分子の場を介した有機磁性系(有機スピン系)のスピン整列の制御、ひいては磁性の光制御が可能である事を、世界に先駆けてしめすことができました。

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