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「さきがけ研究21」研究報告会「形とはたらき」
Vol. 1 (2000) p.75
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アサガオ(Ipomoea nil)のモデル植物化に関する研究
仁田坂 英二1)
1) 「形とはたらき」領域
  アサガオ(Ipomoea nilまたはPharbitis nil)は、英名Japanese Morning Gloryが示すように、日本独自の園芸植物であるが、日本に自生する植物ではなく、今から約1200年前に遣唐使によって薬草(下剤)として中国より輸入されたとされている。その後、江戸時代後期に当時の園芸ブームに乗じて、数多くの突然変異体(変化朝顔)が見いだされ現在まで保存されてきている。戦前には今井義孝、荻原時雄をはじめとする日本人遺伝学者による精力的な遺伝解析が行われ、連鎖地図が作製された。このようにアサガオは、当時トウモロコシに次いで詳細に解析されていた植物であった。しかし、江戸時代から連綿と保存されてきたアサガオの突然変異系統は第二次世界大戦の混乱で激減しその後、国立遺伝学研究所が保存収集を始めたが、私がさきがけ研究で系統更新を再開するまで系統維持を休止している状態であった。本研究のねらいは、日本独自の遺伝学的研究材料としてのアサガオを、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のような分子生物学におけるモデル植物とすることを見据えて、そのための基礎的な研究環境の整備を行うことである。アサガオは他のモデル植物と比べて、以下に述べるような色々と優れた点があり、古典遺伝学的知見も集積している。モデル植物として欠かせない、自殖性であること、世代時間も比較的短いことなども備えている。現在、遺伝学的解析が比較的詳細に行われている植物は単子葉植物ではトウモロコシとイネ、双子葉植物ではシロイヌナズナとキンギョソウである。例えば、これらの植物では開花調節においてはどれも鋭敏で明確な反応を示さないため非常に研究がやりづらい面がある。しかしアサガオは短日性植物であり、たった1度の暗処理で花芽を分化する。またシロイヌナズナはいちばん詳細に解析されている植物であるが、その名のとおり白い花を咲かせるため花色に関する色素合成等の研究には向いていない。アサガオにはトランスポゾンによると考えられる易変性の変異が多く、現在でも頻繁に転移を行っており、他の植物には見られないような特殊な突然変異体もいくつも存在する。また交配可能な近縁種が存在するため、種分化過程で固定した形質を遺伝学的に解析することができ、分子進化と形態進化をつなぐことのできるモデル植物としても有用である。本研究では、アサガオをモデル植物として使っていくために欠かせない、以下のような点に関して研究を行った。1)突然変異系統の更新·解析。2)詳細な連鎖地図の作製。3)トランスポゾンによるクローニング系の開発 4)形態形成遺伝子のクローニング 5)アサガオ近縁種の分子進化学的解析。次の項目でこれらの研究成果について順を追って述べていく。

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