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加藤たん白生態プロジェクトシンポジウム報告資料
Vol. 1 (2000) p.9
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細胞周期進行を制御するNEDD8修飾システムの発見
逢坂 文男1)
1) 蛋白解析グループ
  mRNAから翻訳された蛋白質は、細胞内でそのままの形で存在するものもあるが、多くは種々のプロセシング·修飾を受けている。このような翻訳後修飾は、細胞内での局在化、立体構造の安定化、代謝速度の調節などを介して、修飾された蛋白質の機能発現に寄与している。したがって、新規完全長cDNAクローンによってコードされている蛋白質の機能を解析する場合にも、翻訳後修飾の関与を念頭におく必要がある。我々は、ヒト完全長cDNAバンクの網羅的解析の一環として、インビトロ翻訳産物の電気泳動による解析を行っているが、その過程で、翻訳後修飾の結果生成した思われる産物が、電気泳動ゲル上で観察されるcDNAクローンをいくつか見出した。その中の一つが、NEDD8をコードするcDNAである。NEDD8(neural precursor cell-expressed developmentally down-regulated gene 8)は1993年にマウス神経芽細胞の分化に伴い発現が抑制される遺伝子群の一つとして報告された。NEDD8はユビキチンと非常に高い相同性を持っていたが(図1)、その機能は未知であった。ユビキチンは真核生物に普遍的に存在する分子量8kDaの蛋白質であり、そのC末端のグリシン残基で基質蛋白質のリジン残基とイソペプチド結合する。ユビキチンにより翻訳後修飾を受けた基質蛋白質は速やかに蛋白質分解酵素26Sプロテアソームに提示され、平成7〜9残基までのペプチドに分解される。ユビキチン化を受ける基質蛋白質としては転写調節因子群(p-53,c-myc等)、細胞周期調節因子群(CDKインヒビター、サイクリン等)、DNA複製調節因子等を含む実に多様な短寿命蛋白質群が知られており、それらの代謝速度は生理的条件下でユビキチン/プロテアソーム系によって制御されている。基質蛋白質へのユビキチン化反応はユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)、ユビキチンリガーゼ(E3)の3種類の酵素群によって触媒される(図2)。これら酵素群の中で基質蛋白質と直接相互作用するのはE3である。近年、E3は多様な分子ファミリーを形成していることが明らかになり、その多様性が基質蛋白質の選択的な認識を可能としている。また、CDKインヒビターやβ-カテニン等を含む多くの基質蛋白質のユビキチン化反応には、基質蛋白質のリン酸化が必須であり、ユビキチン/プロテアソーム系は細胞内情報伝達に応答して基質蛋白質の代謝速度を制御していると考えられる。

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