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土居バイオアシンメトリプロジェクトシンポジウム要旨集
Vol. 1 (2000) p.9
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Magoh—ショウジョウバエ胚極性形成に必要なmago nashiのマウス相同遺伝子—の初期胚発生過程での発現
岩井 裕希子1)
1) ゲノム非対称性グループ
  生物の発生において、物質の非対称的な分布が細胞自身や組織の分化を導くことは広く見られる現象である。ショウジョウバエ、線虫、カエルなどでは、胚の体軸形成に受精卵内での母性因子の局在(=非対称的な分布)が深く関わっていることが明らかにされ、分子生物学上の知見も多い。ところが、哺乳動物の初期胚では受精卵の極性と胚の体軸はあまり関係がないと考えられてきた。たとえば、マウスでは、母性由来の遺伝子産物はその大部分が受精後から2細胞中期までに分解され、胚自体の遺伝子産物に取って代わられる。また、8細胞期まで各割球は等しい分化能を持つ。2·4細胞期の1割球はマウス個体まで発生できるし、8細胞期の割球は他の割球と組み合わせてキメラ個体が得られる。8細胞期の後期になると細胞接着が発達して割球がくっつき合う「コンパクション」が起こり、内側と外側の細胞という違いが生じてくる。近年になって、形態的なマーカーを利用した詳細な観察の結果から、マウスでも受精卵とその後の胚の体軸に相関があるとの報告がなされている。本プロジェクトではマウス胚発生初期(着床前発生段階)における遺伝子発現パターンを細胞分裂ごとに調べるために各細胞期のESTライブラリを作成し配列データを公開してきた。このライブラリから、発生初期の体軸形成に関連性のある既知の遺伝子について調べたところ、ショウジョウバエ胚の体軸形成に必要なmago nashi(mago)遺伝子のマウス相同遺伝子(Magoh)が見つかった。Mago nashi(mago)は、ショウジョウバエ胚の前後軸と始原生殖細胞形成に必要な決定因子を含む極細胞質の形成と局在に関わるposterior group遺伝子群の一つである。mago突然変異系統の胚では、極顆粒の後極の局在が失われ、腹部形成異常·生殖細胞欠損が見られる。また、magoは、卵母細胞の背腹軸形成過程でも必要であることが分かっている。mago突然変異系統の卵母細胞では微小管ネットワークの再編成が乱れて、正常発生で見られる前方背側への核の移動が起きなくなる。さらに、致死突然変異系統が得られていることから、生存への関わりも考えられる。Mago蛋白質のアミノ酸配列は生物界に広く保存されているが、それだけでなく、ハエと線虫では、機能的にも相同であることが、証明されている。しかし、Mago蛋白質の生化学的な機能は殆ど明らかにされていない。我々は、マウスの胚発生初期過程でのMagoh遺伝子の役割を明らかにしようと考え、まず、その発現パターンを調べた。また、Magoh蛋白質の細胞内分布の観察を試みた。

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